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フライ取り
 
おじさんがやんわりと上に向かってボールを投げる。
それを6歳くらいの4人の子供たちが取り合っている。
山なりに投げられたボールは「フライ」という。
だから子供たちはこれを「フライ取り」と呼んでいた。
ひときわ夢中になってる子供がひとりいる。
ひろしだ。
日が暮れてきて「フライ取り」が終わる。
ボールを投げてくれたおじさんがいう。
「ひろしはフライ取りがうまいな」
これが「野球」というアメリカ生まれのスポーツに
夢中になっていく野球少年
さかいちひろしの始まりだった。

 

初めてのノック
 
ボールを「打つ」道具、それを「バット」という。
自分で投げたボールを自分のバットで打つことを
「ノック」という。
そのボールを取る練習のことも「ノック」という。

ひろしが小学校3年生になった夏。
お母さんの実家の近くの少し田舎に引っ越した。
こっちには誰も友達がいない。
そこでお母さんが少年軟式野球チームに
ひろしを入団させてくれた。

初めての練習でノックを受けるひろし。
たくさんの子供たちに混ざって初めて受けたノック。
飛んできたボールをグローブで取ろうとするひろし。
しかし・・・

「痛い」

ボールはグローブには当たらず右手の親指に当たった。
「つき指」してしまったのだ。
たった一球で初めてのノックは終わってしまった。
親指は赤くはれあがっていた。

一番はしっこ

 

野球は9人対9人でやるスポーツだ。
攻撃側と守備側に2つのチームが分かれる。
この9人を「レギュラー」といい、
残りの人を「ホケツ」という。

ひろしの練習しているグラウンドは
いつも通っている小学校の校庭だ。
毎週日曜日の午前中には別のチームが、
午後にはひろしのチームが練習している。

ある日この2チームが練習試合を行うことになった。
グラウンドに審判と両チームが並んで挨拶する。

「よろしくお願いします!」

と大きな声をあげて40人以上の子供たち全員が挨拶。
ホケツはベンチで座って待つ。
ところがここは小学校のグラウンドだ。
ベンチに座れるのはチームを指揮する監督とコーチ、
そしてレギュラーだけだ。
ホケツはベンチの脇の地面に座って
レギュラーの応援だ。
ひろしはその一番はしっこに座っていた。
チームで一番ヘタだから。

グローブを買ってもらった 
 
2人組で1人がボールを投げ、もう1人が受け取る。
これを「キャッチボール」という。
「キャッチボール」には「グローブ」が必要だ。
「フライ取り」の時のやわらかいボールではなく、
「軟球」という硬いボールを使うから。

ひろしが小学校2年生になった頃、
お父さんがグローブを買ってくれた。
新しいグローブはとってもかたくてうまく閉じられない。
なのでボールをうまくとれない。

「こうやってボールを入れてひもで縛っておくと
やわらかくなるんだ」

といってお父さんはグローブをひもで縛ってくれた。
でもなかなかやわらかくならない。
だからお父さんのグローブを良く借りた。
お父さんのグローブは大きくて古かったけど、
やわらかかった。
結局お父さんのグローブばかり使っていた。
でも新しいグローブも嬉しかった。

「キャッチボール」をするときは2つとも持っていって、
友達にどっちかを貸してあげる。
相手はお父さんのときもあった。
場所はいつも住んでる団地の近くの公園。
ひろしは日が暮れるまで「キャッチボール」をした。

ユニフォーム 
 
野球の試合の時に着るおそろいの服、
これを「ユニフォーム」という。
胸にはチームの名前、背中には「背番号」がついている。

ひろしは4年生になって初めてユニフォームをもらった。
アイボリーに緑の文字、そして赤いふちが入っている。
ベルトのいらない「ベルトレス」だ。
背番号は「30」。小さい体に大きな背番号だ。
背中から背番号がはみでてるように見える。
毎週日曜日の午後はユニフォームを着て練習だ。
まだ上級生の練習のお手伝い、「球ひろい」だけど、

「フライ取り」から「野球」へ。

本格的に「野球」が始まった。

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